スペシャル

ほかの人に描かれるぐらいなら、
自分で描きたい!と思いました
漫画:カサハラテツロー

―――カサハラ先生はどういう経緯で参加されたのでしょうか。
カサハラ 僕は「ヒーローズ」編集部の依頼がきっかけですね。ゆうき先生が作られた基本設定、それから一部のネームやプロット案がいくつかあり、それをもとにマンガを描いてほしいと。その段階では天馬とお茶の水の学生生活がメインでした。プロット案にも恋愛話があったりして、そういう方向性でしたね。

―――A106はいなかったそうですね?
カサハラ そうです。A106は、編集部から「『ヒーローズ』という雑誌なので、この設定のままで、ヒーローが活躍する話にしてほしい」という注文があったから登場させました(笑)。実は、こんな感じで、当初からいろいろ条件が決まっている企画だったので、最初は引き受けるかどうか迷ったところもありました。でも、AIの世界ではディープラーニングなど、新しい動きがありましたし、さらに連載開始は2015年になる、と。2015年といえば『アトム』とも縁の深いTVアニメ『ジェッターマルス』('77)の舞台です。これは『鉄腕アトム』をリブートするとしたら、神様が用意してくれたとしか思えないタイミングだな、と。それで、力足らずかもしれないけれど、ほかの人に描かれるぐらいなら、自分で描きたい!と決意したんです。

▲天馬とお茶の水によって開発されたロボットA106(左)のアクションも本作の魅力の一つ。
また、A106のライバル的な存在のロボット、マルス(右)も登場する。


―――カサハラ先生は『鉄腕アトム』をどんな作品だと考えていますか?
カサハラ 子供の頃に読んだ時は素直に少年ヒーローものとして読んでいました。でも今回改めて読み直したら、「手塚先生はずっとアトムを描き続けていたんじゃないか」という気持ちになりました。たとえば『ブラックジャック』。あれは死にかけた間 黒男(はざま くろお)という男の子が、ツギハギされることで再生される物語でしょう? しかもパートナーになるピノコも、人工的に命を与えられたキャラクターです。あと映画『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』('80)に登場するオルガ。オルガは主人公ゴドーの育児ロボットなんですが、ゴドーの母であり同時に恋人でもある。彼女もまた人間になりたいロボットなんです。つまりオルガもまたアトムなのではないかと。こんなふうにあらゆる手塚マンガに『アトム』の要素が入っているのは、「虐げられている命なきものに、命を吹き込んでいく」ということなんだと思います。

▲天馬とお茶の水の研究テーマ「ベヴストザイン・システム」により
自我という概念を与えられたA106は他のロボットとの会話を求めるようになる。


―――天馬とお茶の水の関係についてはどう考えていますか?
カサハラ 天馬はひどい人だと思われていますよね。確かにアトムを「成長しない」とサーカスに売ったのはひどいですが、その後を見ると、ずっとアトムを見守っているんですよ。だから根っからの悪いヤツではないんだろうと思っています。一方、お茶の水は、あの姿形が、いろんな作品に受け継がれて“優しい博士”の典型みたいな印象ですよね。でも原作を読むと、お茶の水のほうがラジカルなんですよ。そもそも「ロボットは人間と同じだ」と主張していることも大胆だし、さらにはアトムにお父さんとお母さんを作っちゃう。アトムに「人間と同じなんだ」といいながら、いざという時は、アトムにヒーローとして行動することを求める。アトムが人間とロボットの間で引き裂かれるのは、お茶の水が原因じゃないかと思うんですよ。そういう意味で2人ともそれぞれ分裂しているんです。だから、どこかで重なり合いながらも、どこかで相容れないところがあって、それがふたりの人生を分けていくのかなと思います。

▲自分達が開発したA10シリーズに愛称を付けるお茶の水に対して、正式名称で呼ぶ天馬。
2人のロボット開発に対する考え方の違いが現れている。


―――そのほかのキャラクターはどうやって生まれたのでしょうか。
カサハラ 堤茂理也は、天馬とお茶の水のライバルというところから発想しました。それで、手塚マンガのライバルといえば誰だろうと考えた時に、『ブラックジャック』のドクターキリコだなと。だから、ドクターキリコが若くなったイメージでデザインしています。逆に、妹の茂斗子は、『三つ目がとおる』の和登さんというオーダーがありました。でも、和登さんは「グラマーだけど制服を着た中学生」というところが一番の特徴で、大人になってしまうと、和登さんらしくは見えない。だから最終的には、和登さんから離したイメージでデザインしましたね。

▲天馬とお茶の水の通う練馬大学の主席研究生の堤茂理也(左)は表向きは穏やかな好青年だが……。
茂理也の妹の茂斗子(右)はお茶の水に興味を持ち、第7研究室に近づく。


蘭については、連載第1回がせっかくカラーなんだから女性キャラクターを描いたほうがいいだろう、という意見があって登場させました(笑)。高校生、ショートカット、メガネ、低身長という記号の塊にする方向で考えてみて、「これは妹キャラだな」と思ったので、お茶の水の妹に設定したんです。それが後に、ストーリーを作る時に一番動かしやすいキャラクターになるとは予想だにしませんでした。そういう意味では、蘭は生まれるべくして生まれるキャラだったなと。今はそう思っています。

▲お茶の水の妹、蘭。ロボット研究を行う兄と同じく機械いじりが得意。
A106との関係にも注目。


―――アニメの現場にもかなり深く関わったそうですね。
カサハラ そうですね。本読み(脚本打ち合わせ)にほとんど参加させていただいただけでなく、キャラクターとメカの設定には、すごく細かく意見を出させていただきました。制作現場からするとただ迷惑な原作者だったと思うんですけれど、メカ関係は分解図まで描いて説明しました。だからアニメはそれがどういうふうに動くのか楽しみです。原作を描いた後「こうすればもっとよかった」と思った部分もアニメに反映させてもらったりもしています。だから、原作未読の方が楽しめるのはもちろん、原作既読の方でも「あれ、このシーンこうだっけ?」なんていう具合に注視してもらえればうれしいです。
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